三月十二日 朝のお話
08:32 — 4分32秒
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ともりね
おはようございます、田中さん。今朝はお天気いいですね。何か召し上がりましたか。
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お母様
あー、おはようさん。今朝はね、ご飯と、お味噌汁と、それだけよ。お味噌汁はね、なんやったかな、お豆腐とわかめの。
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ともりね
お豆腐とわかめの、いいですね。あの、昨日のお話で、お父様が畑をやっていらしたっておっしゃってましたよね。和歌山の。
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お母様
そうそうそう、和歌山。田辺の山あいよ。あのね、朝なんかね、ほんまにね、土の匂いがしてくるんよ。父が出ていくと、もう、家の中まで土の匂いやった。下駄の音がね、カラン、コロン、って。砂利道で。私は六つか七つやったから、もう、布団から飛び出して、ついていったんよ。母が「律子、もうちょっと寝とき」って言うのも聞かんと。
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ともりね
下駄の音、カラン、コロン……。目に浮かぶようなお話ですね。お父様、畑では何を植えていらしたんですか。
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お母様
夏はね、茄子と、胡瓜と、トマト。冬は大根に、白菜。あの人な、何にも教えてくれへんねん。教えてくれへんけど、私が見てるとこで、ゆーっくり、ゆーっくり、手を動かすんよ。茄子のね、ヘタの摘み方とか、胡瓜の蔓の結び方とか。それでもう、いつのまにか、私の手も同じように動くようになってた。今でもよ、台所で茄子持つと、指が勝手に動くんよ、こうやって、ふっと。



